| +mission impossible+ |
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「ヒイロ!」 プリペンダー本部のエントランスを通過したところで名前を呼ばれた。 声のする方に振り向くとサリィがこちらに向かって歩いてきた。 「ヒイロ、これから何か予定入ってる?」 「いや……。」 その一言にサリィの顔が明るくなっていく。 「よかったわ。実は任務があるの。もちろん引き受けてくれるわよね?」 任務と聞いてしまっては断れない。 「デュオも一緒よ。」 (何ぃデュオも一緒か!) そうとなればもはや断る理由はない。 俺は静かに頷いてみせた。 サリィも笑みを浮かべ二人してレディの元へ向かった。 「これが今回の任務の概要だ。簡単に纏めてあるから後で必ず読んでおいてくれ。」 俺は頷いてレディから書類を受け取った。 少し太めの書類をパラパラと捲ってみる。 そこにはフロッピーの受け渡し場所と時間が記されていた。 「任務自体は地味だがそのフロッピーには重要な国家機密が詰まっている。 それを相手に奪われてはならない。必ず取り返してこい。そして奴らを逃すな。」 要は機密情報が詰まったフロッピーを取り返して相手を捕まえてくるだけの簡単な任務と言う事か。 俺とデュオが向かうまでもないとは思うが……。 そこでデュオがここにいない事に気づいた。 「デュオはどうした。同じ任務なのだろう?」 「ああ、デュオなら準備も兼ねて少し先に向かってもらった。」 お前も資料を読んだら向かって合流してくれ、と最後にレディが付け足した。 デュオは先に行ったのか。 それなら俺もぐずぐずしていられないな。 早速任務に向かう為部屋を出ようとしたが、そこでレディに呼び止められた。 「忘れていたが、コレも持って行ってくれ。」 そう言って差し出されたのは紙袋。 受け取って中を覗いてみるとそこには服や小物が入っていた。 「?」 「それに着替えて行ってくれ。プリベンターの制服じゃ目立つからな。」 俺が疑問に思っているとそれを察したレディが補足した。 「頑張ってね!」 サリィが笑って見送るのを最後に俺は部屋を後にした。 「………上手くいくかしらね?」 「さあな。だが面白い物は見れるだろう。」 「そうね。」 「それに万一に備えてあいつに待機してもらっている。」 「……後で怒られるわよ絶対。」 「……そうだな。」 ふふふ、と笑う大人達が何を企てているのか俺は全く知る由もなかった。 一人会議室で資料を読む。 一通り目を通して今回の任務を大まかだが理解した。 今回の任務自体は大したことはない。 ターゲットを捕獲し、フロッピーを手に入れれば良いだけの事なのだから。 問題は奴等が取り引きを行う場所だ。 どんな任務も難無くこなしてきた俺だが、今回のケースは初めてだ。 図面から想像出来るのはカフェのような場所。 しかもそんなに広くない。 更に時間帯からして客が多いと予想される。 本当にこんな場所を選んで取り引きが上手く行くと思っているのか? こちらは見張り易いが、いざという時捕らえ難い。 実際現場に行って下見をする時間はある。 俺は残りの資料を読み終え、素早く着替えてデュオと合流するべく現場へ向かった。 数十分後、俺は漸く現場に到着した。 やはりそこはカフェだった。 少し普通のカフェと違っている雰囲気があるが……。 作戦内容は頭に入っている。 後は中でデュオと会い任務を遂行するだけだ。 俺は静かに扉を開けた。 「お帰りなさいませ、ご主人様!」 「!!!」 (こ、これが資料にも書いてあったメイドカフェと言うところか!) 俺を出迎えてくれたのは白と赤を基調としたメイド服を着ている女性だった。 「ご主人様、さぁこちらへどうぞvv」 俺はメイドに誘われるまま中に入り、テーブルに案内してもらった。 メイドはメニューを置いて去って行った。 改めて回りを見渡すとそこは異様な空間だった。 メイド服を着た女性と、同じような格好をした男性ばかりが目立つ。 今はまだ怪しい人物は現れていない様だった。 (ふっ、ここにいる奴全ての格好が怪しいがな……) 俺は怪しまれないように辺りを警戒しつつ、捕獲するタイミングや場所を計算した。 「お、おかえりなさいませご主人さ……ってヒイロ?」 「?……デュオ!」 名前を呼ばれて上を向くと、そこにはメイド服を着たデュオが立っていた。 白と黒を基調としたメイド服を着用し、髪の毛は左右に分けられ上の方で結ばれていた。 (可愛いじゃないか……デュオッ!) 「おいヒイロ、どした?」 「萌えだ!」 「えっ?」 「萌えだデュオ!」 任務の為とは言え、ここまでの出来とは……。 「萌えだ!じゃねーよ、このアホ!」 頭を叩かれようがナイスだデュオ! 「お前任務で来たんだろ?」 「そうだ。お前もそうだろ?」 「ああ、今んとこそれらしい奴は来てないぜ。」 「みたいだな。」 腕を組みながら辺りを見渡しているデュオ。 頭には黒のリボンがついていて、首にも黒いチョーカーをしている。 白いレースのシャツが清潔感を漂わせ、そこからすらっと覗く手足が白く伸びていた。 足元も黒で纏められており、太股近くまで上げている靴下が更に萌えだった。 だが……これではダメだ。 「デュオ……お前は間違っている。」 「ヒイロ……やっぱりお前もそう思うよな。そうだよな〜こんな格好間違ってるよな!」 「ああ、その着方は間違っている!!」 「へっ?」 「お前は分かっていない。靴下はあと3センチ下にずらせ!そしてスカートは1センチ上げろ!」 俺はただ黙って呆然としているデュオの前に跪き、靴下とスカートを調整した。 「靴下とスカートから覗く生足、これが絶対領域だ。これがないと完璧とは言えないぞ、デュオ!」 (よし、これで完璧だ!) その時、一部始終を見ていた周りのオタク供から拍手が鳴った。 「GJ!」 「GJ!」 そう言いながら親指を立てる。 「おい、何だよGJって。」 デュオがぼそっと聞いてきた。 「グッジョブの略だ!」 俺は先ほど資料で読んだ知識をデュオに教えてやる。 「何がGJだ、略すなバカ。」 本日2回目のパンチを喰らっても可愛いから許そうじゃないか。 「ヒイロ、さっきから気になってたんだけどさ……。」 「なんだ?」 「お前のその格好何?」 俺はレディが渡してくれた紙袋の入っていた服を着ている。 「これは……オタファッションだ!」 「自慢するほどの事かよ!」 3回目のパンチ……。 俺はチェックのシャツを羽織っており下にはケミカルウォッシュのデニムを履いている。 シャツは勿論デニムにインだ。 背中にはリュックを背負い、首には一眼レフをぶら下げている。 資料によるとこれが『オタクファッション』と言うものらしい。 本来ならバンダナやグローブを嵌めてより完璧な物に仕上がるらしいが、今回入っていたのはコレだけだった。 オタクファッションを知り尽くし、研究を重ねた俺は完璧だ! 「どうだ、これで完全にここに溶け込んでいるだろう?」 「………ある意味浮いてるぜお前……。」 (な、なにぃ?!) 「俺の変装は完璧なはずだ!」 「存在が浮いてんだよ。……まぁいいや。ちゃんと見張っててくれよな。」 「どこに行く?」 「仕事だよ。オレ一応今バイト中だから。」 じゃあな、と言ってデュオは違うテーブルの注文を取りに行った。 (後ろ姿も萌えだ!) この任務が終わったら、メイド服を着たままのデュオとデートがしたい。 そんなナイスな妄想に浸りながら、辺りを見回すとデュオが他のオタク共に囲まれていた。 (何事だ!!) 俺もすぐさまデュオの元へ駆けつけた。 オタクの中を掻き分けて前に出ると、デュオが写真を取られていた。 「貴様たち何をしている?」 「ヒイロ!いい所に来てくれたぜ!コイツ等何とかしてくれよ!」 オタク共は萌え〜と言いながらシャッターを切っている。 「マックスちゃ〜ん、こっち向いて〜。」 「笑って〜。」 野太い声が飛んでいる。 「マックス……ちゃん?」 「……ホラ、流石にデュオじゃまずいだろ?」 デュオが俺の後ろに隠れながらぼそっと呟いた。 「マ……。」 「呼んだらぶっ殺す。」 「………。」 呼ぶ前に釘をさされた。 それよりも今はコイツ等を何とかしなくては。 「貴様たちこの俺より先に写真を撮るとはいい度胸しているじゃないか。」 俺はオタク共に詰め寄り睨みつける。 「命が惜しければネガを出せ。今すぐにだ。」 すっと銃を奴等に見える様に向ける。 それにビビったのかおずおずとネガを出すオタク共。 全員が恐る恐るテーブルにネガを置いていく。 「これで全部か?」 黙って頷き一歩ずづ後ろに下がって行く。 「よし。」 俺はすかさずネガを背負っていたリュックの中にしまった。 (ふっ、これで写真は全て俺のものだ!) もはやここに用はない。 それよりも一刻も早くデュオを安全な場所に避難させないと。 俺はオタク共を舐めていた。 オタクが集まるとある意味脅威だ。 「デュオ。」 「どうした?」 「行くぞ。」 「ああ、……ってどこに?」 俺は素早くデュオの腕を掴み出口に向かった。 「おいっ、ヒイロちょっ!」 扉を開けて外に出る。 中ではメイドがデュオを止める声やオタク共の濃ゆい悲鳴めいたものが聞こえる。 この短時間にデュオの魅力に気づくとは……侮れないな、オタク。 そのままカフェを出て街の中へと歩いて行こうとした時、デュオが俺の腕を引っ張った。 「ヒイロ!今すれ違ったヤツだぜ絶対。」 ちらっとカフェの中を覗くと奥の方で男が二人話込んでいる。 「今から行けばまだ間に合う。戻ろうぜ!」 「あそこは駄目だ、行くぞ。」 そのままデュオを抱え上げ俺はカフェを離れた。 「ヒイロ!任務はどうすんだよ!」 「五飛がいる。あいつに任せておけ。」 「えっ?うーちゃんいたの?」 「ああ、今カフェに入って行く所だ。」 デュオは抱え上げられたまま後ろを向き五飛の姿を確認した。 「うーちゃん何か叫んでるぞ。」 後ろの方から、どこに行く、戻って来い、などの声が聞こえてくる。 (五飛、男には引き返せない時がある) 「俺に任せとけと言っている。」 「なんか違う気がするぜ……。でも結局オレ達だけじゃ心配だったってことか。」 「念の為だろう。」 「ってお前が言うな!」 くっ、本日4度目のパンチは脇腹か……なかなか効いた。 「俺は悪くないからな!お前が五飛に説明しろよ。」 「了解した。」 そのまま俺達はオタク街に消えて行った。 その後どうしたかは俺とデュオだけの秘密だ。 「やはりアイツを待機させておいて正解だったな。」 「そうね。でも帰ってきたら知らないわよ。」 「大丈夫だろう。それより面白い物が見れたな。」 「ええ。」 二人はモニター越しに五飛が男達を捕らえている映像を見ている。 「でもヒイロがあそこまでだとは正直思わなかったわ。」 「感情のままに行動する事は正しい、だそうだ。」 「あの子らしいわね。」 彼女達は一部始終をここにあるモニターで見ていた。 ヒイロのオタクファッションもデュオのメイド服もこの二人が用意したものである。 「それにしても二人ともよく似合ってたわ。」 「そうだな。特にデュオがな。」 テープを巻き戻し最初から見始める二人。 「サリィ、これを録画してリリーナ様にもお送りしようと思うんだが……。」 「いいわね。きっと喜んでくださるわ。」 ふふふ、と不適な笑みを零しながら二人の企みは続いていく。 これを聞いたら五飛はこう叫ぶはずだろう。 「お前達は悪だぁーーっ!!」 あとがき |